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女子バスケットボールプレーヤー大神雄子の軌跡と覚悟

2017年シーズンが開幕し、今シーズンをバスケットボールプレーヤーでのラストイヤーとして迎える一人の選手がいます。これまで長らく女子バスケットボール界を牽引してきたトヨタ自動車アンテロープスの大神雄子選手。 そんな大神選手のラストシーズン開幕直前に聞いたこれまでの道のりや今の心境、彼女の下した決断について伺いました。

ーー 大神選手の過去ということで、8歳からバスケを始めたわけですが、バスケを始めたきっかけはなんだったんですか。

大神選手:父親が山形大学でバスケ部の監督をしていました。姉もバスケをしてましたし父の学校のバスケの大会にも連れてってもらっていたのでバスケに触れる環境がありました。8歳の頃父親のコーチ留学で1年間アメリカに行っていた時に始めました。
ーー 当時バスケを始めた頃はどんな気持ちでやっていたのでしょうか。

大神選手:始めた当時はバスケが本当に楽しくて、とにかく夢中でボールを追いかけていました。
今でもこうやってバスケができているということはその頃の気持ちを今も持ち続けられているからだと思っています。

バスケを始めて1年間アメリカでやって日本に帰ってきてからは山形の小学校・中学校でバスケをしました。中学校の時は全国大会で2位にもなって。
小学校6年生の頃から愛知県の名古屋短期大学附属高校(桜花学園)に入りたいという目標がありました。
名古屋短期大学附属高校には中学生で全国大会に出ないと声をかけてもらえなかったり、目をつけてもらえないと思っていたので、中学生の頃は全国大会を目標にひたすら練習していました。

高校時代は全9回の全国大会のうち7度優勝という成績でしたが、9冠を目指していたので負けた2つのことの方が思い出としては残っています。
どちらかと言えば悔しさの方が多い高校時代の印象ですが、その悔しさがあって今の自分があると思っています。
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ーー すでに小学校の頃から高い目標設定を掲げることができていて、そこに向かった準備ができているように思えるのですが、それができるようになった原点はいつだったんでしょうか。

大神選手:もしかしたら環境が大きかったのかもしれませんね。
間違いなく小学生の頃アメリカに行ったという経験は大きかったです。
アメリカではバスケットボールは4大スポーツの一つで、そんな環境に自分を連れて行ってくれた家族やNBA選手を間近で見た経験が刺激をくれました。

同時にこんな人になりたいなっていう憧れだとか目標の選手がどんどんでてきたのが今のところ自分のパワーの原点かなと思います。

また、高校入学当時はこの学校で全国9冠を取りたいんだと思っていましたが、先生の「世界で通用する選手を育てたいんだ」という言葉を受け、世界ジュニアやアジアジュニアとかに出場する機会をもらって少しずつ目標が増えていきました。
ーー 目標としていた選手は誰だったんですか。

大神選手:その当時は女子のWNBAがまだなかったので、NBAの選手を見ていました。
ちょうど行っていた場所がロサンゼルスだったので、ロサンゼルスレイカーズで言えばマジックジョンソンだとかシカゴブルズのマイケルジョーダンの全盛期の時代だったのでロサンゼルスでの試合は連れていってもらいましたし、カレッジバスケも盛んだったので父が行っていたUCLA大学のカレッジバスケットボールも見に行き、バスケットに触れる機会が多かったのも良かったと思います。

アメリカにはどの家庭にもバスケットボールが置いてあったので向こうの人は何よりもプライドがあるんです。
バスケが好きだということを表現できる1つのプライドだと思うんですけどもそれは日本では経験できないことでした。
その経験から負けず嫌いになりましたし、バスケが好きだという気持ちが表現できるようになり、勝って喜んだり負けて悔しかったりということを学んだ気がします。
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ーー 大神選手を見ていると誰よりもバスケが好きなんだという気持ちが伝わってきます。

大神選手:バスケットが好きな人って多分たくさんいるんですよ、いろんな分野で。
NBAの話をすると自分より詳しい人もたくさんいるし、bリーグの選手を全員覚えているという人もたくさんいる。
その人はその人なりのいろんな方法でバスケットを愛してると思うんですけど、自分はというと、選手として上手くなるためにまだまだへたくそだなと思う自分に常に喝を入れて、バスケットをどこまでも極めたいという思いは強いと思いますし、それは好きじゃなきゃやっていけないですからね。
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ーー 強豪校に入ると練習など厳しいイメージがあります。楽しいことだけじゃない面も多々あると思いますがバスケが好きだという気持ちがあったからこそ乗り越えられたのでしょうか。

大神選手:辛い状況でも楽しめたらなと思うんですよね、でも当時は辛いなと思っていました。
今は年齢も重ね徐々にその捉え方も変わってきました。

中学時代から全国大会に出場するなど周りからはエリートだと言われてきましたが、自分ではそんな風には思った事はありません。
JXに入団した当時は試合にも出られませんでした。
私つくづく人生は負け勝ちだなと思いながら今こうしていられることが幸せだなと思っています。
今日も若い人たちと一緒に練習してましたけど、なかなか34歳になってできる人は少ないですから。
ーー 練習を拝見させてもらいましたが誰よりも声が出てましたし、誰よりも動いているように思いました。実際カメラが追いつかない位速いスピードだったので、まだまだできるのではないかと思ってしまいましたがご本人はどう感じているのでしょうか。

大神選手:自分も34歳だから疲れてそうだと思わせたらダメだと思っています。
そう思わせた時点で誰がなんと言おうとそれはコートを退く時だと。
実際18歳だろうが34歳だろうが同じ選手なのでそこは負けたくない気持ちがあります。
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ーー ブログやSNSを拝見していると周りへの気配りが行き届いている方なんだなという印象も受けました。

大神選手:自分が今ここにいられるのは若い選手がいて、チームがあって、会社もあって、ファンの方もいるので、選手でいる時は発信することも使命だし、責任だと思うので今ではSNSをしっかり通してそれをどうやってうまく使っていくのかというのを勉強する毎日です。

あと自分は心理学に興味があるので自分の言葉1つでファンの方がどう捉えるんだろうという反応を見ている自分もいます。
ーー 周りを見るという面ではパスをもらった時点でもう視線が次のスペースを探していましたね。

大神選手:自分のポジションというのもあるんですが、予測と判断をする準備と言うのは常に気を遣わないといけない競技だと思います。


ーー 準備について気にしている部分はありますか?

大神選手:食事と睡眠は気をつけています。
女子の団体競技のほとんどは寮で昼と夜食べることが多いのですが、自分は一人暮らしして朝昼晩自分で食べているので、食べるバランスだとか栄養には気をつけています。

睡眠はマットレスにもこだわって、どのタイミングで寝るか気を遣っていて、練習は今日も2時間くらいでしたけど、練習の前後の準備とケアがすごい時間がかかります。

若い時は何もしていなかったですけど、怪我したことがきっかけで気を遣うようになったので、今思うと怪我をしたことも良かったなと思うんですよね。
その時はネガティブになったんですけど。

よく高校生とかで前十字靭帯切っちゃってとか足首捻挫して動けなくて歯がゆいですという気持ちはすごく大事です。
いつかは絶対コートに戻ってこられるので怪我をしたことの経験も大切にしてほしいです。
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ーー バスケットに限らず人生は嬉しいこともあれば辛いこともあると思うのですが辛い部分はどのように乗り越えているのでしょうか。

大神選手:自分はもともとネガティブだったんですが、きっかけをくれた天真爛漫なチームメートがいたんです。負けが込んでいても、この子はなんでいつもすぐ切り替えられるのだろうと思っていたのですが、その選手と時間を過ごすことで考え方が変わりました。

そこからバスケットだけじゃなく人生も良いことだけじゃないし、悪いこともあってそれが人生なんじゃないかなと思うようになって。

今までも正直ずっとバスケットで成長させてもらったし、これからもバスケットに携わっていきたいと思うし、そこで出会った人もいれば別れた人もいる。それでもバスケットだけが全てじゃないなと思います。プライベートの時間だとか睡眠時間や家族との食事や旅行に行ったりなど、すべてを含めて楽しめるからこの2時間の練習を頑張れるのかなと思います。
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ーー 大神選手はよくそのプレースタイルなどがよく男性的と表現されることが多いですがその辺はどう感じているのでしょうか。

大神選手:嬉しいですよ。バスケットボールは自分の中ではかっこいいスポーツだと思っています。今だってラッパーの人がバスケットのユニホームを着てラップをしていたり、バスケットシューズだってスニーカーとしてファッションになっています。
なので自分も常にかっこよくありたいというふうに思ってプレーをしています。

自分はスポーツ観戦も好きなんですけど、だいたい観戦をしている時は選手のことって呼び捨てじゃないですか?
自分も選手としてコートに入る時会場の中学生などから「大神!」とか「大神頑張れ」など言われるとすごく嬉しいんですよね。大神さんとかシンさんとかよりも嬉しいですね。

呼び捨てにされることによってこの人たちはちゃんと自分のことをプロの選手としてとして見てくれてるんだなと感じられるので嬉しいです。
それに応援してくれるファンの方との距離も近く感じますしね。
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ーー 1年間中国のリーグに行ってその後フリーになりました。そして現在トヨタ自動車アンテロープスの選手として現役ラストシーズンを迎えましたが現在の目標は何でしょうか。

大神選手:もちろん今は今シーズンのことしか考えていませんが、29・30歳あたりから1年1年が勝負だと思いながら過ごしてきました。
その中で今年34歳です。
シーズンが終わった後はなかなか次のシーズンに行くスイッチが入らないほど考え込みます。
それだけやるって決めた時はちゃんと準備もしっかりしますし、がむしゃらにやってた若い頃よりも、次こうするためにはどうするかというような逆算の準備をするようになりました。

今は違うんですけども、プロとしてバスケットボールに携わり、1年1年勝負をしていく中でセカンドキャリアを自分の口で言えないのは問題だと思いました。

自分の中ではバスケットにはこれまで学ばせてもらったし、成長させてもらった分、今後も何らかの形でバスケットに携わってバスケットを普及させる、メジャーにさせることがここまで経験させてもらった最後の恩返しだと思っています。

現在はバスケット選手としてじゃなくてどのような形でアプローチしていけるかを模索した中で、コーチングのライセンスを習得しているのですが、それは父親も指導者でしたし、母親もバレーボールをやりながら高校の先生をやっていたので身近に指導者がいたというのは1つのきっかけになりました。

いずれは指導者になりたいという気持ちがありましたので。
その覚悟ができたのが今年でした。
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大神選手:何か次のステージに行くというのは自分の中では覚悟だと思うんですよね。
自分の中ではその覚悟はできたのかなと思っています。
なので選手として衰えたからというマイナスな部分ではなくて次に行くっていう覚悟が自分自身でできたから発表をしました。

女子は各地で試合をすることが多いのでシーズン前に発表することによって今まで支えてくれたファンの皆さんにこれだけ今まで支えてきてもらったんだという思いを表現したいし、見てもらいたいという思いがあります。

自分は人が好きです。
それはチームメートだけじゃなくて応援してくれるファンのみなさんもそうだしSNSでも勇気を持ってコメントしてくれる人はその人にも相当な勇気がいったと思うので自分も勇気を持って返そうと思うし、それがきっかけで少しでも変われたり、自分もそうやって変わってきたのでその人のきっかけになることができれば、選択肢になることができればというのが選手として最後にできる責任なのかなと思っています。
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ーー お話を詳細まで聞かせ頂き、ありがとうございました。最後に大神選手の今後の目標を教えてください。

大神選手:大神雄子としてというよりもバスケットボールが今後2020年以降どこまで認知度が上がって人気の高いスポーツになっているか、次のオリンピックで上位に入っているかということの方が大事なんで、そこに自分が少しでも力になりたい関わりたいという一心です。

そのために、じゃあ自分が何をやらなきゃいけないかというものが今後見えてくるのではないかと思っています。

まずは選手としての集大成をファンの皆さんにお見せしたいのでぜひ応援に来てください。
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【 Profile 】
大神雄子
1982年 10月17日山形県で生まれる
1990年 8歳でバスケを始める
1998年 名古屋短期大学附属高校(桜花学園)に進学
1999年 インターハイ・国体・ウィンターカップの三冠達成
2001年 ジャパンエナジーJOMOサンフラワーズ(現JX-ENEOS)に加入
2004年 アジア選手権でアテネオリンピック出場権獲得に貢献。アテネオリンピックには最年少の21歳で出場。
2005年 アジア選手権(4位)
2006年 ドーハアジア競技大会(3位)
2007年 日本国内女子選手として初となるプロ契約を締結
2008年 フェニックス・マーキュリーで2人目の日本人WNBAプレイヤーとなった
2009年 Wリーグの試合中、相手選手と接触し左手首を骨折、6月フェニックス・マーキュリー退団
2011年 アジア選手権(3位)、大会ベスト5
2013年 JXを退団し、中国女子バスケットボールリーグの山西興瑞に移籍(日本人選手としては3人目)
2014年 中国リーグがアジア人枠を撤廃したため山西興瑞とは契約ができず、無所属に
2015年 トヨタ自動車アンテロープスに加入

プレーオフMVP2度、レギュラーシーズンMVP1度、ベスト5に6度、アシスト数1位4度、スチール数1位1度
全日本総合選手権ベスト5(2005年大会から2012年大会まで8年連続受賞)
東京運動記者クラブバスケットボール分科会選出年間ベスト5(2006年度から2012年度まで7年連続受賞)

【 大神雄子選手のSNSはこちら 】

<Facebook> @ohgayuko
<Instagram> @shin___01


【 トヨタ自動車アンテロープスのHP・SNSはこちら 】

<ホームページ> トヨタ自動車アンテロープス
<Facebook> @ToyotaAntelopesOfficial
<Instagram> @toyota_antelopes


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ぽん ぽん