体育館に飛び交うヒューンという甲高い音。“クロスミントン”というスポーツだ。“スピードミントン”の名前で呼ばれることもあるが、本来、スピードミントンはラケットなどのメーカーの名前であり、正式名称は“クロスミントン”だという。私たちも初めて体験させてもらったが、始めてすぐにとても引き込まれた。昨年世界ランキング1位を破った西村昭彦さんにクロスミントンの魅力を語ってもらった。

以前バドミントンメーカーに勤めていた西村さんは、adidasブランドを通じてバドミントンの裾野を広げたかったという。

しかし1年後、会社がバドミントンから撤退してしまう。これが西村さんにとって大きな転機となった。

ほかのメーカーなどでバドミントン業界に残るか、他業種に移るか考えていたところ、スピードミントンに出会った。

競技性とエンターテイメント性を両立し新しいラケットスポーツの楽しみ方を日本で展開したいと考えすぐにスピードミントンジャパンの代表(ドイツ在住)へ掛け合い、本場ドイツで1か月間の武者修行を行った。

2002年、ドイツのベルリンでクロスミントンは発祥した。
日本では2005年~2006年頃、日本クロスミントン協会の現理事長など数人が教室を開いたことから行われるようになった。

ドイツ発祥ということもあり、やはりヨーロッパが盛んだ。アジアでは日本が最も盛んだという。

世界選手権、ヨーロッパ選手権はともに2年に1回開催されている。
マスターシリーズというテニスでいうツアートーナメントのような世界ランクにつながる大会も、日本を含めた世界各地で25大会開かれている。

クロスミントンとは、簡単に言うとネットのないバドミントンだ。
道具はラケットとスピーダーのみ。
ラケットはバドミントンよりも柄の部分が短く、初心者でも非常に扱いやすい。

スピーダーはバドミントンのシャトルのような形状だが、丈夫で少し重みがあり、軽く打っても非常によく飛ぶ。

ラケットやスピーダーはレベルに合わせて様々なものがある。また、競技コートは5.5m×5.5mの正方形を12.8m離して二面つくる。
このコートはテープのようなもので囲ったり、線を引いたりするだけで簡単にでき、テニスコートで代用することもできる。

ルールも相手のコートにいれるか、相手にミスさせるか、と至って単純だ。

簡単で初心者でもすぐに楽しめ、いつでもどこでもでき、お洒落でかっこよく盛り上がる。

このエンターテイメント性がクロスミントンの特徴だ。
実際に体験させていただいたが、ラケット競技が全くダメな私自身でも、初めてでもとても簡単に打つことができ、ラリーも続き、非常に楽しめた。

クロスミントンは非常に自由な広がりをみせており、ビーチで水着を着て行うビーチミントンや、雪山で行うスノーミントン、暗闇で行うブラックミントンなどもある。

競技ではないフリースタイルで打ち合うことを楽しむ人も多く、クラブなどでペイントを塗りDJの音楽に合わせてプレーする人もいるという。

道具も蛍光色でお洒落なものが多く、今までのスポーツにはないほどのかっこよさがある、とてもリア充感満載のスポーツだ。

西村さんは選手としてもプレーしながらスピードミントンジャパンとして営業・マーケティング活動をし、さらにクロスミントン協会の強化部技術担当として、イベントの企画や物販を行い、クロスミントンの普及活動に日々尽力している。

体験会やイベントを各地で開催し、道具を買ってくれた人にクラブチームを作ってもらいながら普及を進めている。

一方で選手としては、昨年開催されたジャパンオープンにおいて、世界チャンピオンを抑えて優勝するほどの実力だ。

実際に私も西村さんと打たせてもらって体感したが、いつ自分のところへ飛んできたのかもわからないほどのスピードだった。

今後いろいろな人が公園で気軽に日常的にプレーするようになってほしいと語る。

体験会や練習会に参加する人も社会人や主婦が多く、スポーツ未経験者も多くいるそうだ。

「ラケットスポーツ経験者はもちろん、これからスポーツを始めようと思っている人や、スポーツする機会をなかなか作れないファミリー層などあらゆるコミュニティの人々にやってもらいたい。」

また、競技としては来年の世界選手権で世界一を狙い、アジアをリードしていきたいという。

西村さんたちの普及活動によって、クロスミントンの輪は日本全国にまで広がっており、クラブチームも全国各地につくられている。

しかし練習や技術などもまだまだ確立されておらず、クラブチームのみんなで作り上げていくため、クラブチームごとに色が違うそうだ。

確立されていないからこそ試行錯誤しながら作り上げられる面白さ、誰もが中心人物として、一緒に普及していく重要な役割を担うことができる面白さがある。

「まだ創成期だから、初めてきてくれた人でもみんなが中心人物で、自分たちがクロスミントンを広げるんだという意識を持ってくれるんですよ。参加者全員が一体となっている感覚、みんな横並びで前に前に進んでいる感覚がとても楽しいですね。」

実際に始めて一か月くらいで大会に出る人もいるように、練習すれば誰でも日本代表になって世界大会に出ることができ、世界の人とつながれるという。

取材当日の練習には元世界チャンピオンのダニエル選手も参加していて、自らの技術を惜しみなく教えていた。

これほどまでに世界のトップ選手たちとつながることができるスポーツがあるだろうか。

クロスミントンにはほかのスポーツにはない魅力がたくさん詰まっている。

「来年ポーランドで世界選手権があるので一緒に日本代表として戦いましょう。」

少し口下手な彼の笑顔、そして生き生きとプレーする姿からクロスミントンへの想いが伝わってきた。

【プロフィール】
西村昭彦 クロスミントン日本代表
1987年5月29日生まれ 北海道出身
青森山田高校 (バドミントン部OB)
中央大学法学部法律学科卒業 (体育会バドミントン部OB) 
前職でアディダス バドミントン部門(Racket Sports Japan社) 商品企画を担当。その後、アディダスバドミントンのアドバイザリースタッフ経験。
ドイツ スピードミントン社で世界チャンピオン指導のもと本場のトレーニングを受け、 スピードミントンジャパンオープンで 世界1位 ペアを破り優勝。
ICO CROSSMINTON JAPAN OPEN 2016 ダブルス優勝、シングルス準優勝。
SPEEDMINTON JAPAN OPEN 2015 ミックスダブルス優勝。
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ヤス ヤス